大判例

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福岡地方裁判所 平成10年(わ)235号

被告人(一)

氏名

能登久子

年齢

大正一二年一一月二日生

本籍

福岡県田川郡赤池町大字赤池四三二番地

住居

福岡県嘉穂郡頴田町大字勢田一二五番地の二一

職業

会社役員

被告人(二)

氏名

能登謙二

年齢

昭和二三年一〇月三〇日生

本籍

福岡県田川郡赤池町大字赤池四三二番地

住居

福岡県嘉穂郡頴田町大字勢田一二五番地の一

職業

会社役員

検察官

平野辰男

弁護人被告人(一)、(二)

矢田次男(私選)

主文

被告人能登久子を罰金二〇〇〇万円に、同能登謙二を懲役一年に処する。

被告人能登久子において右罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人能登謙二に対し、この裁判の確定した日から三年間右の刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人能登久子(以下、「被告人久子」という。)は、福岡県嘉穂郡頴田町大字勢田一二五番地の一において「能登環境開発工業」の名称で衛生業を営んでいたもの、被告人能登謙二(以下、「被告人謙二」という。)は、被告人久子に雇われ、右衛生業の事業全般を統括していたのもであるが、被告人謙二は、被告人久子の業務に関し、同人の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外し、架空の経費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成五年分の実際総所得金額が六七八二万八八〇三円であったにもかかわらず、同六年三月一五日、福岡県直方市殿町九番一〇号所在の直方税務署において、同税務所署長に対し、同五年分の総所得金額が九一一万八四四四円で、これに対する所得税額が一〇五万七五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二八九六万七五〇〇円と右申告税額との差額二七九一万円を免れた。

第二  平成六年分の実際総所得金額七〇六一万五二六七円であったにもかかわらず、同七年三月一五日、前記直方税務署において、同税務所署長に対し、同六年分の総所得金額が九八九万九五〇一円で、これに対する所得税額が一二四万七〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二八五六万一〇〇〇円と右申告税額との差額二七三一万四〇〇〇円を免れた。

第三  平成七年分の実際総所得金額が七七三四万二三五二円であったにもかかわらず、同八年三月一五日、福岡県飯塚市新立岩一一番四五号所在の所轄飯塚税務署において、同税務署長に対し、同七年分の総所得金額が一四三七万三七二三円で、これに対する所得税額が二五〇万九〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三一七一万九五〇〇円と右申告税額との差額二九二一万五〇〇円を免れた。

(証拠)

(被告人両名共通、括弧内の甲乙の別及び番号は検察官の証拠請求番号を示す。)

判示全部の事実について

一  被告人久子の公判供述、検察官調書二通(乙六・七)

一  被告人謙二の公判供述、検察官調書四通(乙二ないし五)

一  吉門恵美子及び能登美知子の検察官調書各一通(甲三七・三八)

一  証拠品写しの作成について(報告)(甲一)

一  査察官調査書二九通(甲八ないし三六、四一、ただし、甲二二を除く)

判示第一及び第二の各事実について

一  税務署の所在地について(報告)(甲二)

判示第一の事実について

一  脱税計算書(平成五年分)(甲五)

判示第二の事実について

一  脱税計算書(平成六年分)(甲六)

判示第三の事実について

一  税務署の所在地について(報告)(甲三)

一  脱税計算書(平成七年分)(甲七)

(法令の適用)

罰条

判示行為第一ないし第三の各事実につきいずれも

被告人久子につき 所得税法二四四条一項、二三八条一項、二項

被告人謙二につき 所得税法二三八条一項

刑種の選択(被告人謙二)

懲役刑選択

併合罪

平成七年法律第九一号附則二条二項により、同法による改正後の刑法(以下「改正後の刑法」という)四五条前段

被告人久子につき 改正後の刑法四八条二項

被告人謙二につき 改正後の刑法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)

労役場留置(被告人久子)

平成七年法律第九一号附則二条三項により改正後の刑法一八条

執行猶予(被告人謙二)

平成七年法律第九一号附則二条三項により改正後の刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、被告人久子が個人事業として経営する能登環境開発工業の平成五年分から平成七年分の事業収入に関する所得について、同被告人の息子である被告人謙二が、被告人久子の被用者として所得税の確定申告をする際、実際の総所得金額よりともことさらに著しく少ない所得金額を申告して多額の所得税を免れたという事案である。

被告人らが本件ほ脱行為により免れた税額は、三年分合計で八四四三万四五〇〇円と多額に上り、ほ脱率も通算で九四パーセントを超え極めて高い点、被告人らによる本件と同様のほ脱行為は、本件以前から行われており、本件犯行もその一環として継続的かつ計画的に行われたものである点で、本件犯行は悪質なものであると言わざるを得ない。そして、被告人謙二については、本件犯行の動機として、被告人らの事実が衛生業であることから、かねてより世間から差別を受けてきたため、他の事業を始めることを考え、その資金として少しでもお金を貯めようとしていたことを挙げるが、その背後には同被告人の納税意識の欠如を看取できるのであって、かかる動機を取り立てて同被告人に有利な情状とすることはできない また、被告人久子については、事実のことは全て被告人謙二に任せていて、本件ほ脱行為は分からなかった旨弁解するが、平成六年ころの税務署の税務調査があり、正規の所得税額を申告、納付していないことを知り得たにもかかわらず、何ら是正措置を講ずることなく、漫然とそのほ脱行為を放置していたのであるから、事業主としての監督責任違反は甚だしい。さらに、本件のような脱税事件は、申告納税制度を採用している我が国の税制の根幹を揺るがしかねないものであり、この種事件に対する一般納税者の法感情には厳しいものがあると考えられ、強く非難されるべきものである。そうすると、被告人らの刑事責任には重いものがある。

他方、被告人謙二においては、前科、前歴が一切なく、被告人久子においても、交通事犯以外には前科、前歴がなく、両名とも本件犯行を素直に認めてこれを深く反省し、判示三年分を含む過去七年分の修正申告を行い、少なくとも判示三年分の所得税及び消費税の本税、重加算税及び延滞税等並びに地方税である住民税について完納している。また、被告人らは、本件犯行の発覚後、事業を法人化し、税理士に経理を委ねることによって、適正な会計処理に務めており、被告人久子においては経営から身を引いているほか、被告人両名とも本法廷において二度と同じ過ちを繰り返さないことを誓約している。

これら被告人らにとって有利、不利な事情を考慮の上、主文のとおりの刑を量定した。

(求刑 被告人久子につき罰金二五〇〇万円、被告人謙二につき懲役一年)

(裁判官 重富朗)

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